学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1第3回の報告と予告

こんにちは。

学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1(生物・生命科学)第3回(2024年3月25日@Google Meet)の報告をします。

メンターは、学術系Vtuber 某国立大学大学院博士後期課程3年 生命燐(いのちりん)さんです。

第3回のテーマは、遺伝子工学の基礎

DNAの二重らせん構造の美しさに魅せられて研究の世界に入ったメンターが、わかりやすいイラストや実際の実験の画像を使って説明します。

(以下、生命燐さんのチェック終了しました。2024.04.06)


まず、遺伝子工学とは、遺伝子を人工的に操作する技術です。

その目的は、病気の治療、農作物の改良、産業用微生物の開発、生物学的研究など。

基本的な操作手順としては、目的の遺伝子を特定し、切り出し、他の生き物などに挿入し、編集し、新たな遺伝子を持つ物を作り出します。

その方法を3つ学びました。

1 PCR法
COVID-19(コヴィッドナインティーン)の診断法として最近聞くようになりましたが、1983年にノーベル化学賞が与えられており、目新しい技術というわけではありません。

これは、DNA配列はわかっているが、少量なので、含まれているかどうかわからないときに、DNAを増やしてそれがわかるようになる、という技術です。
増やしたいDNA(例えばCOVID-19由来のもの)と、DNA分子を構成する塩基4種類のうち結合しやすいものなどのパーツと、バラバラのDNAとを用意し、ポリメラーゼという酵素と、試験管の中でミックスします。
温度を上げると、DNAが2本に分かれ、少しだけ温度を下げると、パーツがDNAにくっつきます。

ここに酵素が加わると、元のDNA情報を読み込みながらバラバラのDNAがくっついて、DNAが伸長し、増やしたかったDNAの情報が2倍になります。

このサイクルを n 回繰り返すと、2の n 乗のDNAができ、目的のDNAが含まれているかどうかがわかるようになります。


2 CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)

PCR法と異なり、こちらは最新の技術で、この機構を用いたゲノム編集システムの開発にノーベル化学賞が与えられたのは、ほんの数年前、2020年です。

これは、特定のDNAを切断できる技術で、原核生物における獲得免疫系から見つかりました。

原核生物がウイルスに感染すると、ウイルスをもったDNAが注入され、宿主の体を乗っ取ってウイルスを合成しようとします。

これに対抗するのが、獲得免疫系です。
獲得免疫系は生まれたときから備わっているものではなく、一回感染して獲得する免疫です。

入ってきたDNAを、酵素の集団がバラバラにしてDNAに組み込むのですが、再度感染したときに、一度感染したことがある、と気付いて、組み込まれたDNAをいち早く分離します。

ここから、ガイドRNAによって切断したいDNA配列を酵素が切断する技術が開発され、生物から特定のDNAを切り取ってきて別の生物に乗せ換える、などの切り貼りが正確にできるようになりました。


3 大腸菌を用いたタンパク質発現系

これは、生物にタンパク質を作ってもらう方法です。
他の生物から研究したい配列のタンパク質を取ってきて、プラスミドDNAに組み込み、大腸菌の中に入れると、トランスフォーメーション(形質転換)が起きます。

形質転換した大腸菌を培養し、タンパク質の発現を誘導し、タンパク質を精製します。

ここで質問が出ました。

「遺伝子工学の文脈において大腸菌が使われることが多いように感じるのですが、なぜでしょうか?」

メンター「人間は真核生物で、核と呼ばれる膜の中にDNAが入っていますが、大腸菌は原核生物で、細胞の中に直接DNAが入っているため、構造がシンプルで扱いやすいです。

また、1時間で2倍になるなど、増殖が速いため、研究するときに使いやすいという点もあります。

さらに、遺伝子のクローニングや発現に関する豊富な知識が既に存在するため、研究において広く利用されます」


以上3つの方法は、目的によって使い分けられます。

DNAを増やしたいときに使うのはPCR法、DNAの配列を変えたいときはCRISPR/Cas9、タンパク質をたくさん作りたいときは大腸菌です。

後二者の目的については、ほかにもいろいろな方法があります。


こうした遺伝子工学の応用例は、さまざまです。

医療分野では、遺伝子治療(特定の遺伝病を治療するために患者の遺伝子を修正する)、テーラーメード医療(患者の遺伝的情報に基づいて、個別化された治療法を提供する)、ワクチン開発など。

ワクチン開発については、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが近年での成功例と言えるでしょう。

農業分野では、病気や乾燥に強い改良作物(耐病性・耐乾性作物)の開発、栄養素を強化した食品の開発など。

産業分野では、生物学的製造があります。

例えば、糖尿病の治療に使われるインスリンはホルモンの一種で、これもタンパク質なのですが、そうした医薬品をほかの生物に大量に作ってもらうのです。

最後に、環境保全の観点から、環境汚染の浄化に役立つ微生物の開発を挙げることができます。

ここで質問が出ました。

「農業分野に関して、遺伝子組み換え作物は人体への安全性を疑問視する声がありますが、実際、人体への影響はあるのでしょうか?」

メンター「前回、タンパク質であるコラーゲンは体内に摂取されると、一回アミノ酸としてバラバラにされて、そのうえで、自分の体を作るタンパク質が組み立てられていくという話をしました。

生物の原則として、情報をもった物質は、体の中でバラバラになって、新しい情報をもった物質になるのですね。

遺伝子組み換え作物の場合、変わるのは遺伝子の配列ですが、遺伝子の本体であるDNAの塩基配列は、RNAの一種であるmRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、次に、タンパク質のアミノ酸配列に翻訳されるのでした(セントラルドグマ)。

つまり、遺伝子の配列はタンパク質の情報になるということです。

そして、タンパク質は体内に摂取されると、アミノ酸としてバラバラの情報になるので、基本的に、遺伝子組み換え作物の人体への影響は考えにくいです。

前回もお話ししたように、生物は、酵素同士が複雑にからみ合っていろいろな化学反応を起こしながら生きている状態ですから、思わぬところで思わぬ働きが起きる可能性も考えられますが、基本的には、遺伝子組み換え作物の人体への影響は考えにくいと思います」


最後にメンターが、

「どれも夢のような技術ですが、遺伝子の情報は究極の個人情報であり、また、自然の摂理を思えば、どのようにこれらの技術と付き合っていくのか、も考えないといけないと思います」

と話すと、こんな感想が出ました。

「人間は自然にできた生き物だから人間がすることは全て自然なことだ、と、以前観たテレビドラマのセリフにあって、共感できたので、その人がしたいようにしたらいいじゃん、と思ってしまいます」

それに対して、メンターは言いました。

「遺伝情報を改変するかどうかは個々人が選択できればよいですが、技術開発の過程ではサンプルとして大量のデータが必要になります。

遺伝情報を提供してもらったが、のちに提供者の考えが変わった場合にどうするか、など考えないといけない問題はたくさんあります。難しいですね」


第4回(4月1日20:00-21:00)のテーマは、当日20:00に発表します。

申込みは、メール( info@thinkers.jp )、Facebook( @jp.thinkers )のメッセージ、X(旧Twitter)( @jp_thinkers )のDM、いずれでもOKです。

参加費は無料、前提知識は必要ありませんので、お気軽にご参加ください。


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