こんにちは。
オンライン読書会 シーズン3 ユリウス・カエサル『ガリア戦記』第3回(2023年3月20日)の報告をします。
メンターは、小山馨太郎さん。
23歳、東京都立大学 人文科学研究科 歴史・考古学教室 前期博士課程、新進気鋭の研究者です。
テキストは、ユリウス・カエサル『ガリア戦記』(國原吉之助 訳、講談社学術文庫)。
著者のガイウス・ユリウス・カエサル(紀元前100年頃 - 紀元前44年)は「賽は投げられた」「ブルータス、お前もか」「来た、見た、勝った」などの名言で有名な、古代ローマの英雄です。
『リィンカネーションの花弁』『Fate/Grand Order(FGO)』などの人気漫画、アニメ、ゲームにも登場しています。
第3回は、カエサルの軍人としての構え、特に「運」と「備え」に迫りました。
添付しているのは、小山さん作成の第3回資料です。
部族の分布やカエサルの進軍経路は、こちらでご確認ください。
第4巻 第20~21章、第28~31章
カエサルは現在のイギリス、ブリタンニアを侵攻します。
ブリタンニア人が、ガリア人の反ローマ戦争に協力をしていることに気付いたからです。
しかし、海の向こうにあるブリタンニアは、ローマ人にとって謎だらけの土地。
なんとか上陸してブリタンニア人と交渉をはじめたものの、嵐や潮の満ち引きによって、多くの船や装備を失ってしまいます。
それを知ったブリタンニア人たちは一転、ローマ軍を追い出そうと陰謀をたくらみますが、カエサルが修繕させた船に乗って、ローマ軍は辛くもガリアに帰還します。
それにしても、不思議です。
第1回で見たように、『ガリア戦記』は、ローマの有力者たちに失脚させられないため、殺されないために、カエサルが書いた「自己PR」です。
それならば、船を失ったことや、兵たちがブリタンニア人の戦法にビックリしてなかなか勝てなかったこと、などは控えめに書けばよいでしょうに、カエサルは詳細に記述しています。
小山さんによると、ギリシア神話に描かれているトロイ戦争に観られるように、古代ギリシャ・ローマの人々は、物事を「神の気まぐれ」と捉えていたそうです。
その延長として、将軍の器量をはかるにあたっては、偶然を前にしてどう振る舞うか、を見ていたのだそうです。
つまり、カエサルは、嵐や潮の干満といった偶然にも動じることなく、壊れた船の木材を使って比較的被害の少ない船を修繕させ、食糧を現地調達しつつ、ブリタンニア人の陰謀を予期して、味方の救援に向かったり兵を配置したりした、と述べることによって、「運」が悪くても「備え」を怠らなかった、だから帰って来られたのだ、とアピールしているわけなのです。
第5巻 第28~第33章
なかなか平定できないガリア。
カエサルは、ローマ軍団をガリア各地へと派遣することにしました。
その中のある軍団の指揮官は、サビヌスとコッタでした。
ある部族の王が、サビヌスとコッタに提案をします。
「実はガリア人がゲルマニア人と共謀して、一斉にローマ軍団を攻撃するという計画があるが、自分はカエサルに恩義がある。攻撃される前に他の軍団に合流したらどうか。我が部族の領土内を通過してよいぞ」と。
サビヌスとコッタは会議を開いて議論します。
コッタはじめ多くの者は「カエサルの命令なしに立退くべきではない」と主張しますが、サビヌスが「王を信じて提案を受け入れよう」と強硬に主張したことから、コッタが折れます。
サビヌスの主張通り、夜明けとともに陣営を出たものの、案の定、王の提案は罠でした。
奇襲をかけられて、その軍団は壊滅しました。
これは、ガリア戦争を通じて最も大きな損害でした。
5000人の兵士を失ったわけですから、ローマにいる有力者たちが、ここぞとばかりにカエサルを批判しはじめます。
それに対してカエサルは弁解をしなければなりません。
要は、部下の不始末なわけですが、どう考えてもおかしな計略に部下が引っかかって自滅した、と、まるでその場にいたかのような臨場感をもって書いています。
その軍団の生存者はごくわずかしかおらず、仮に捕虜や密偵に聞き取りをしたとしても、真相にたどり着けるとは思えません。
どうやら、自分に都合よく話を盛っている可能性もありそうで、カエサルの狡さが窺えます。
しかも、奇襲を予想していなかったサビヌスがおろおろしていたのに対して、予期していたコッタは将軍として義務を果たしたが、打った作戦がまずかった、と突き放しています。
「運」には逆らえないけれども、予想をして「備え」をすることが指揮官の心得だ、と、弁解をしていたはずが、いつの間にか「自己PR」につながっているところが、見事だと思いました。
ところで、「賽は投げられた」の「賽」はサイコロのことだと言われていますが、小山さんによると、第一の意味は運、偶然、なのだそうです。
それを踏まえると、「賽は投げられた」の本当の意味が見えてきます。
一般的には、「やるしかない」と、後に引けない決断を促す言葉と理解されていますが、ここから先は何が起こるかわからない、運次第だ、という意味なのです。
もちろん、だからどうなってもよい、といった投げやりな態度ではなく、事前に予想し、備えをした上での、運任せです。
未来(これから何をやるか)にではなく、過去(これまで何をやってきたか)に重点がある、と言えばいいでしょうか…
参加者も、
「賽は投げられた、正しく使いたいです」
と言っていました。
5年後、カエサルはガリアからローマへ向かうことになりますが、武装解除してローマに入らなければならない、という条件がありました。
政敵は、この好機に、罪状をでっちあげて処刑してやろうと、手ぐすねを引いて待っています。
まるで殺されに行くようなものです。
ガリアとローマを隔てるルビコン川のほとりで、カエサルは「賽は投げられた」と言って、軍団を率いたままルビコン川を渡り、軍事クーデタをおこして、政敵を排除することになります。
『ガリア戦記』を書くことも含めて、支持者を増やすべく、周到に準備してきたカエサル。
それは、自分の命が狙われていることへの対策だったわけですが、その後3年も続く、地中海全体を巻き込んだ内戦すら、カエサルは予期して対策を取っていたのかもしれません…
カエサルが狙われた(嫌われた)理由が少しわかったような気がしました。
第4回(3月27日20:00-21:00)は、第7巻第1~6章、第83~90章を読み、ガリア戦記の「完結」とその後のカエサルを見届けます。
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参加費は無料です。
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