オンライン読書会 シーズン3 第4回の報告

こんにちは。

オンライン読書会 シーズン3 ユリウス・カエサル『ガリア戦記』第4回(2023年3月27日)の報告をします。

メンターは、小山馨太郎さん。

23歳、東京都立大学 人文科学研究科 歴史・考古学教室 前期博士課程、新進気鋭の研究者です。

テキストは、ユリウス・カエサル『ガリア戦記』(國原吉之助 訳、講談社学術文庫)。

著者のガイウス・ユリウス・カエサル(紀元前100年頃 - 紀元前44年)は「賽は投げられた」「ブルータス、お前もか」「来た、見た、勝った」などの名言で有名な、古代ローマの英雄です。

『リィンカネーションの花弁』『Fate/Grand Order(FGO)』などの人気漫画、アニメ、ゲームにも登場しています。


第4回は、ガリア戦記の「完結」とその後のカエサルを見届けました。

添付しているのは、小山さん作成の第4回資料です。

部族の分布やカエサルの進軍経路は、こちらでご確認ください。


第7巻第1~6章

ガリアが一旦鎮まったところで、カエサルは任務のためイタリアに帰ります。

その隙を突いて、アルウェルニ族の指導者ウェルキンゲトリクスが、各地のガリア人に呼びかけ、反カエサルの兵を挙げます。

その挙兵は、ためらう者を火焙りに処したり、両耳を剃り落としたりするなど、苛酷なものでした。

もちろん、それが事実であったかは、ガリア戦記のほかに記録がない以上、わかりません。

第1回で見たように、『ガリア戦記』は、ローマの有力者たちに失脚させられないため、殺されないために、カエサルが書いた「自己PR」です。

ウェルキンゲトリクスを、いかにも最終決戦のボスらしい、強烈なキャラクターとして描き、カエサルの慈悲と対比させていることは想像に難くありません。


第83~90章

このガリアの反乱に対し、カエサルは、ローマ軍団を素早く結集させます。

第3回で見たように、軍団をガリア各地へと分散させたために、不安を煽られたサビヌスとコッタの軍団はガリア側の罠にあっさりと引っかかり、壊滅したのでしたが、その失敗を繰り返さぬようにしたのでしょう。

ということは、サビヌスとコッタの悲劇はカエサルのミスジャッジに起因するものであったわけで、部下であるサビヌスとコッタを実際以上に愚かに書いて保身を図った疑惑が、確信に変わります。

カエサル、嫌な上司です。


いくつもの熾烈な戦いで印象に残るのは、土塁などの防御施設を黙々と築いていくローマ兵の姿です。

「ローマ軍はつるはしで勝つ」と言われたのも、むべなるかな、です。


そしてついに、ガリア戦争最大の戦いとも言われるアレシアの戦いにおいて負けたガリア人は、最高指揮権を持っていたウェルキンゲトリクスを、ローマ軍に生きたまま差し出します。

その後ウェルキンゲトリクスは、6年間の捕虜生活を経て、内戦に勝利したカエサルの凱旋式を待って、処刑されることになります。

アレシアの戦いの3年後、カエサルはガリアからローマへ向かいます。

ガリアとローマを隔てるルビコン川のほとりで「賽は投げられた」と言って、軍団を率いたままルビコン川を渡り、軍事クーデタをおこして、政敵を排除していきます。3年間の内戦です。

第3回で見たように、「賽は投げられた」の本当の意味は、事前に予想し「備え」をした上での運任せ、なのですが、ウェルキンゲトリクスを生かしておいたこともカエサルの「備え」なのだろうか、内戦に勝ってウェルキンゲトリクスが必要なくなった、却って邪魔になったから殺したのか、と思うと、空恐ろしくなります。


だからでしょうか、カエサルの腹心中の腹心であったラビエヌスは、ルビコン川を一緒に渡らずに、カエサルと敵対する元老院派につきます。

カエサルは民衆に人気があり、それゆえに内戦に勝利したのですが、近くにいる人にとっては信頼しきれない人物だったと思われます。

カエサルの「自己PR」である『ガリア戦記』は、カエサル自身が書いたものなのですが、そういう自分の嫌なところもさらけ出しているところが、カエサルのすごさであり、『ガリア戦記』の魅力なのでしょう。

参加者も、

「ガリア戦記を読み通せて良かったです(^^)

カエサルのいい所ももちろん、悪いところなども知れて楽しかったです♪」

と言っていました。


4回通して管理人が感じたのは、ざらざらした手触りの「西洋」の原型でした。

カエサルのガリア人の描写は、「例のおしゃべりから、この知らせに尾鰭をつけ」など、若干悪意も感じるのですが、しかし、公平なのです。

例えば、ガリア人は「大声」だと馬鹿にしながら、伝言ゲームのようにして、半日後に240kmも離れたところに情報が伝わっていることもきちんと書いています。インターネットはもちろん、自動車や蒸気機関車もない時代に、です。

それはカエサルの苦労話を盛り上げるエピソードであると同時に、カエサルはガリア人に差別意識はなく、むしろ敬意をもっている、だから心の底では、彼らが自由(自治)を求める気持ちも理解しているのだろうな、と思わせられました。

有名なエスニックジョークに、船が沈没しかかっているときに船長がフランス人乗客を海に飛び込ませようとして言う言葉として、「決して海には飛び込まないでください」というものがあります。禁じられると反発してやってしまう、自由への渇望が骨の髄までしみこんでいるわけですね。

フランスでは今、年金制度改革に対して大規模な反対デモやストライキが起きていますが、『ガリア戦記』に、彼らの反骨精神の原点を見た思いがしました。


という次第で、オンライン読書会シーズン4は「東洋」を見てみたいと考えています。

お楽しみに!

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