学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1第2回の報告と予告

こんにちは。

学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1(生物・生命科学)第2回(2024年3月18日@Google Meet)の報告をします。

メンターは、学術系Vtuber 某国立大学大学院博士後期課程3年 生命燐(いのちりん)さんです。

第2回のテーマは、タンパク質の世界

DNAの二重らせん構造の美しさに魅せられて研究の世界に入ったメンターが、わかりやすいイラストで説明します。

最初に、DNA分子についてのおさらいをしました。

前回出た「DNAはいくつありますか?」の質問にフォーカスすると、まず、DNA(一塩基)ごとに1つと数えることもできます。

次に、各体細胞には46本の染色体があり、それぞれの染色体が複数の塩基を含む1つのDNA分子なので、1本の染色体単位でDNAが1つと数えることもできます。

さらに、46本の染色体の総体で1つのヒトゲノム、1つのヒトDNAと数えることもできます。

DNA分子を構成する塩基4種類は、A(アデニン)とT(チミン)、G(グアニン)とC(シトシン)が結合しやすい性質があることから、それらのペアを塩基対という単位で呼びますが、その塩基対で数えると、1つのヒトゲノムは約32億塩基対で構成されています。ヒトゲノムは、約32億塩基対のDNAの二重らせんから成り、合計で約64億の塩基(両鎖を合わせた数)を含んでいます。

DNAの塩基配列は文字列とも言われるので、文章にたとえてみますと、32億塩基対の中に遺伝子は約23000個あることから、ヒトゲノム、ヒトDNAは、23000段落、32億文字から成る1つの文章と言えます。

実は、遺伝子の情報を持たない部分(たとえると文章として理解することができない部分)もゲノム中には数多く含まれていて、それらの重要性に注目した研究が近年では多く行われいています。


前回の質問「DNA鑑定では、どうやって血縁関係の有無を調べているのか」に回答した後、本題に入りました。

DNAの塩基配列は、RNAの一種であるmRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、次に、タンパク質のアミノ酸配列に翻訳されます。これは前回学んだセントラルドグマです。

タンパク質は、長いアミノ酸鎖から構成される大きな分子で、触媒作用、運搬と貯蔵、セルシグナリング、免疫応答、細胞運動など重要な機能を担います。

まず、触媒作用を担うタンパク質は酵素と呼ばれ、この酵素によって化学反応が起きます。

例えば、唾液がデンプンを分解したり、脂質を脂肪酸とグリセリンに分解したり、逆に、ブドウ糖やグルコースからデンプンを合成したりするのも酵素の仕事です。

運搬と貯蔵の例としては、赤血球に含まれるヘモグロビンは酸素を貯蔵して、体のあらゆるところに運搬します。

タンパク質の基本構成要素は20種類のアミノ酸で、よく聞くものとして、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファンなどがあります。

これらの異なる組み合わせによって無数のタンパク質が作られます。


酵素は化学反応を助けるタンパク質の一種で、酵素と基質が一緒になると、基質は反応物に変化します。

例えば、デンプン(基質)がグルコース(反応物)に分解され、グルコース(基質)はさらに小さいアセチルCoa(反応物)になります。

脂質(基質)は脂肪酸+グルセリン(反応物)に、タンパク質(基質)はアミノ酸(反応物)に変わります。

こうした化学反応では、どの基質にどの酵素が作用するかは決まっていることから、基質と酵素は鍵と鍵穴にたとえられます。

基質が鍵のように酵素に刺さって、時間が経つと反応物に変わりますが、変わると鍵(基質)が別の物質になっているので、酵素(鍵穴)が離れて、別の物質と反応するのです。

このような酵素反応は、中性、低温という穏やかな条件で反応を進めるので、エコなイメージがありますね(酵素洗剤など)。


ヒトの体の中では、いろいろな酵素によっていろいろな化学反応が起きているので、どこかで流れが止まったり、速過ぎたりすると、体調を崩したり、死に至ったりします。

こうした化学反応が、人体という狭い空間の中でいかに整然と行われているかは、生物学者の研究テーマのひとつです。

ここで質問が出ました。

「流れが遅れたり速まっているのを、どうやって治すのですか?」

メンターは答えます。

「例えば、タンパク質の働きが悪く、細胞のシグナルが悪い場合、薬として細胞伝達を促すことができる物質を投与します。

鍵(基質)に相当する物質を摂取して調整を試みることもありますが、酵素反応ネットワークは複雑な流れから成り、微妙なバランスが保たれているので、ピンポイントで狙って整えられるのはレアケースです。

微妙に違う物質をいろいろ投与してみて、仮に試験管内では整えられても、実際の生体内でも効くかどうかはわかりません」

「それだけ複雑だから、薬には副作用が付き物なのですね!」

という感想が出ました。

「酵素反応の流れが悪くなると、細胞は死ぬんですよね。死んだ細胞を復活させることはできますか?」

という質問も出ました。

メンターは答えます。

「完全に死んだ細胞を復活させるのは難しいですが、死んでいるのか生きているのか微妙な状態の細胞を復活させる術(すべ)はこれから発展していくと思います」

複雑な酵素反応ネットワークの図を見て、

「東京の路線図みたいですね」

と感想を述べた参加者もいましたが、まさにこの図はメトロマップと呼ばれているそうです。


酵素を実際に見てみようということで、Protein Data Bank(PDB)を見てみました。

ちなみに、プロテイン=タンパク質です。

通し番号1BDGの「グルコースと複合体を形成したマンソン住血吸虫由来のヘキソキナーゼ」(参加者が調べてくれました)を見たのですが、生物の精密さと複雑さを目の当たりにした思いがしました。

ここで質問が出ました。

「酵素の繋がり方は一様ですか?」

メンターは答えます。

「酵素も含めて、すべてのタンパク質は同じ結合(ペプチド結合)から成り立っていますが、アミノ酸の並び方が違います。それによって三次元的な構造が変わってきて、働き方も異なるものになります」


最後のキーワードは、タンパク質のフォールディング(折り畳み)です。

すべてのタンパク質は紐のようにつながってできています。

紐の状態は、エネルギーの高い、不安定な状態なので、タンパク質はエネルギーの低い、折り畳まれた状態になろうとします。

この折りたたまれる過程は、機能的な構造を獲得する過程です。

1枚の折り紙がさまざまに折れるように、折り畳み方はひとつではないはずですが、特定の折り畳まれ方をするのが不思議なところで、なぜそうなるかはまだ完全にはわかっていません。

最近、アルファフォールドと言って、タンパク質の配列を入れるとどのように折り畳まれるかを予測するAIが出て、近年熱い研究分野だそうです。

体の中には、シャペロンというタンパク質の折り畳みを助けるタンパク質があり、正しい折り畳みが起こるようになっています。

アルツハイマー病やプリオン病といった病名を聞いたことがあると思いますが、脳や神経系に不正確に折り畳まれたタンパク質ができると、どんどん増え、正常に機能できなくなって、それらの病気になるのだそうです。

いずれタンパク質の配列から構造を予測して、治療薬を作ることができるかもしれませんね。


ここからは質問タイムです。

参加者「上手く畳まれなかったタンパク質たちは、ほどかれて紐の状態に戻ることはないのですか?」

メンター「ほどかれるものと、ほどかれずに溜まっていくものがあります。アルツハイマー病やプリオン病など、神経系に不正確に折り畳まれたタンパク質が集まっていく病気の場合は、一般的にほどかれにくい性質をもっています。

卵焼きを作ると、白身の部分は生卵のときのような透明な状態にはもう戻らないのと一緒ですね。

ちなみに、卵はほとんどタンパク質でできていて、卵白はリゾチームというタンパク質でできています」

参加者「タンパク質の折り畳み方を矯正するような技術は現時点でありますか?」

メンター「体の中で実現できるかはさておいて、シャペロンのような働きができる物質を開発するとか、紐の状態のタンパク質に対して、外の環境や加えるものを調整して正しい折り畳みにもっていくような技術はあると思います」

参加者「食べ物のタンパク質は細胞のタンパク質に使われるのですか?」

メンター「外から取り込んできたデンプンなどの基質を自分の体の材料にするためには一回バラバラにする必要があります。

コラーゲンのサプリを摂取するとみずみずしい肌が手に入るといった広告があります。

まったくの嘘ではないと思いますが、コラーゲンはタンパク質で、紐のような構造をしていて、これが一回アミノ酸としてバラバラにされて、そのうえで、自分の体を作るタンパク質が組み立てられていくという流れになります。

ですから、コラーゲンを摂取すると、コラーゲンを構成するアミノ酸を摂取することになるので、コラーゲンの合成を促すことはできると思いますが(これはルシャトリエの原理的な感覚です)、外から取り入れたコラーゲンがそのまま自分の体の一部として働くということは、基本的にはないです」

参加者「コラーゲン→アミノ酸→コラーゲンではないタンパク質になることはありますか?」

メンター「はい、あります。

むしろ体の中は複雑で、アミノ酸がコラーゲンサプリ由来なのか、豚肉由来なのか…などは体の中で区別されません。

生物の原則として、情報をもった物質は、体の中でバラバラになって、新しい情報をもった物質になります」

参加者「コラーゲンを摂取したからといってコラーゲンが生み出されるとは限らないんですね…なんかガチャみたいです」

メンター「そうですね。むしろ、コラーゲンばかりできると体のバランスとして悪いです。生き物はそういう仕組みにはなっていないのです」


第3回(3月25日20:00-21:00)のテーマは、遺伝子工学の基礎です。

申込みは、メール( info@thinkers.jp )、Facebook( @jp.thinkers )のメッセージ、X(旧Twitter)( @jp_thinkers )のDM、いずれでもOKです。

参加費は無料、前提知識は必要ありませんので、お気軽にご参加ください。


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