学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1第4回の報告と予告

こんにちは。

学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン1(生物・生命科学)第4回(2024年4月1日@Google Meet)の報告をします。

メンターは、学術系Vtuber 某国立大学大学院博士後期課程3年 生命燐(いのちりん)さんです。

第4回のテーマは、遺伝子工学の現在と未来、mRNAワクチンの開発

mRNAワクチンは、新型コロナウイルス(COVID-19、コヴィッドナインティーン)への対策として開発された革新的なワクチンで、従来のワクチンとは異なる作用メカニズムを持っています。

それがどういう技術でできているかという点を、DNAの二重らせん構造の美しさに魅せられて研究の世界に入ったメンターが、わかりやすいイラストを使って説明してくれました。


まずは感染症の歴史から。

病原体が判明している19世紀以降の感染症は、ハンセン病、マラリア、腸チフス、結核、コレラ、ジフテリア、破傷風、ペスト、赤痢、梅毒、百日咳と、たくさんあります。

医療技術の進歩、公衆衛生の改善、ワクチン開発などにより、多くの教訓と対策が講じられてきました。

そして、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARSコロナウイルス2がヒトに感染することによって発症する気道感染症で、ワクチンとしてmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが初めて使用されました。


そもそもウイルス感染において、どのように免疫機構が働くのでしょうか。

細胞の表面にウイルス分子がやって来て、もし入り込んでしまえば感染し、細胞のシステムを乗っ取られてウイルスが増殖することになります。

しかし、人間を含む多くの生物は、侵入した病原体に対抗するために複雑な免疫システムを備えています。

免疫機構には、病原体から自己を守るために働く2つの免疫システムがあります。

1つは自然免疫です。

迅速に反応し、感染の初期段階で病原体に対抗します。

特定の病原体を識別することなく、広範囲の病原体に対して同じ方法で反応するのが特徴です。

もう1つは獲得免疫です。

感染後数日を要しますが、感染した病原体に対して高度に特化した反応を展開します。

特定の病原体や抗原に対して効果的に反応し、特化した抗体を用いて識別するのが特徴です。

ワクチンは後者の獲得免疫を誘導するためのもので、弱毒化したウイルス、つまり病原体そのもので、これを摂取することで免疫を獲得します。

これにより、重い病気を発症することなく免疫を得て、本番の感染に備えることができます。


さて、上で挙げたようなこれまでの感染症に対して開発されてきたワクチンはすべて、タンパク質に由来するワクチンでした。

ここでおさらいとして、セントラルドグマの流れ、タンパク質の持つ特異的な基質を認識する能力について押さえておきます。

DNAの塩基配列は、RNAに転写され、次に、タンパク質のアミノ酸配列に翻訳されます。

タンパク質は、アミノ酸鎖から構成される分子で、触媒作用、運搬と貯蔵、セルシグナリング、免疫応答、細胞運動など重要な機能を担います。

触媒作用を担うタンパク質は酵素と呼ばれ、この酵素によって化学反応が起きます。

こうした化学反応では、鍵と鍵穴のように、どの基質にどの酵素が作用するかが決まっています。

従来のワクチンはタンパク質自体を摂取するものですが、mRNAワクチンは、スパイクタンパク質というタンパク質の情報を持ったRNA分子を取り込んで、体の中でタンパク質分子に変換する点が、従来のワクチンと異なります。


では、どうやってRNA分子を送り込んでいるのでしょうか?

mRNAワクチンの構造を詳しく見ていきます。

メンターによると、ウリジンを1-メチルシュードウリジンに置換することで、mRNAは細胞内での早期認識と分解を回避し、スパイクタンパク質の生産効率を高めます。

ここで、質問が出ました。

「ウラシルではなく、ウリジンなのですか?」

DNAを構成する基本単位はヌクレオチドと呼ばれ、塩基・糖・リン酸からなります。

塩基はA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類です。

RNAはDNAと同じように、ヌクレオチドがつながってできていますが、塩基が1つ異なり、TではなくU(ウラシル)が含まれます。糖の化学的な構造も異なっています。

塩基と糖の結合体をヌクレオシド、そこにリン酸が結合したものをヌクレオチドと呼びます。

RNAにおいて、ウラシルのヌクレオシド形式はウリジン、ヌクレオチド形式はウリジン一リン酸(UMP)です。


「シュード」は、ニセ、のような意味なのだとか。

mRNAワクチンで使われている1メチルシュードウラシルの構造を見ると、ウラシルに似ていますが、これがもしウラシルのままだったら、自然免疫によってRNA分子はバラバラにされてしまいます。

ウラシルを1-メチルシュードウラシルに変えることで Toll-like receptor(TLR)の認識を免れ、分解されにくくなるーーという論文を発表したのが、2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコ博士、ドリュー・ワイスマン博士です。

少しだけ違う分子に置き換えることが、mRNAワクチンが自然免疫を回避し、体の中でのタンパク質合成を助ける工夫となっているのですね。

ここで、タンパク質のイメージを確認するため、Protein Data Bank(PDB)で「グアノシンおよびポリUと複合体を形成したサルTLR7の結晶構造」(参加者が和訳してくれました)を見ました。


さらに、mRNAの安定性に関与している PolyA について、

「Aがいくつかは関係しますか?」

という質問が出ました。

mRNAワクチンには、Aが100~150ほどあるそうです。

酵素は末端から分解していくので、大事なところを守るためにAがたくさんついているとのことでした。


メンターが強調したのは、カリコ博士やワイスマン博士の研究だけでなく、いろいろな研究によってmRNAワクチンはできている、ということです。

鋳型DNA(RNAを作るためのDNA分子)の作製(前回見た CRISPR/Cas9 など)や、キャップ付きmRNAの合成、といった高度な遺伝子組み換え技術、自然免疫系や獲得免疫系のメカニズムの理解、ドラックデリバリーシステム(届いてほしい組織に選択的に薬剤を届ける技術)、PEG(ポリエチレングリコール)による物性の調整や安定化(容易に分解されないようにする)、製剤技術、そして治験、それらのどれが欠けてもmRNAワクチンは誕生しなかった、ということが理解できました。


ここからは質問タイムです。

参加者「コロナだけでなく、コロナワクチンにも後遺症があると聞いたことがあるのですが、どこが原因となりやすいのですか?」

メンター「今回のワクチンは初めて実用化されたタイプのワクチンです。

そのため、短期的なスパンでの有効性、安全性は確認されていますが、長期的な影響には、わからないところがあります。

厚生労働省の調査報告によると、ワクチン接種後に長期的に見られる症状とワクチン接種の因果関係が直接結論付けられる事例は未だ報告されておらず、ワクチン接種による後遺症についてはさらなる詳細な調査が必要な状態である、ということです。

生命は非常に複雑なシステムなので、完璧に影響を予測することは難しいです。

後遺症の原因となるとすれば、PEGなどの異物の影響などが考えられるでしょうか……

体に入った異物は免疫システムによる排除や代謝によって対処されるのですが、作り出された新たな抗体や代謝中に作られる物質などによる影響を完全に評価、予測することは難しいです...…そういったことが考えられるのかもしれませんね...…

長期的な研究、評価が必要でしょう。

新しい感染症や新しいワクチンは、いろいろな情報が錯綜する分野ですが、せっかく科学が発達している時代に私たちはいるので、疑問に思ったところを、

『科学的にはどういう研究があるのだろう』

『今どういう説が今一番もっともらしいのだろう』

と自分でも確かめられるようになっていけたらいいと思います。

それが科学を学ぶ意義じゃないでしょうか。

少し難しいかもしれませんが、論文を検索するための検索エンジンがあります。

pubmedという、医学系に特化した論文データベースもあります」


最後は、

「院試は難しいですか」

「学部の時から院の研究室に関われますか?」

「修士と博士は何というか、どう違うのですか?」

「生物学を学ぼうと思った理由を教えてください」

といった、10代らしい質問が出て、メンターは熱心に答えてくれました。

全4回のゼミを通して、生命燐さんから、科学が日々更新されていること、科学の世界が楽しいということを教わりました。

今後も YouTube や X(旧Twitter)で生命燐さんから学んでいきたいと思います。


学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン2は、5/27 6/3,10,17 を予定しています。

テーマは物理学、特に原子力をはじめとするエネルギーにフォーカスします。
詳しい内容が決まりましたら、このウェブサイトでお知らせします。

申込みは、メール( info@thinkers.jp )、Facebook( @jp.thinkers )のメッセージ、X(旧Twitter)( @jp_thinkers )のDM、いずれでもOKです。

参加費は無料、前提知識は必要ありませんので、お気軽にご参加ください。


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