学術系VTuberと学ぶゼミ・シーズン2第3回の報告と予告

こんにちは。

学術系VTuberと学ぶゼミ・シーズン2(物理・環境)第3回(2024年6月10日@Google Meet)の報告をします。

メンターは、産業エコ系VTuber KIWAMU(きわむ)さんです。

第3回のテーマは、エネルギーと環境問題

工学研究科 博士課程後期修了のメンターが、わかりやすいスライドで説明します。


最初に、2022年の日本のエネルギー消費量は、高度成長期真っ只中の1965年と比較して3倍に増加していて、一人当たりのエネルギー消費量は2.3倍に増加していることを確認しました。

生活水準が上がるとともに、インフラで使われる電力量が増えたため、技術の進歩や省エネルギーをもってしても、これだけの増加を止めることはできなかったのです。

単に人々の需要が増えているだけでなく、人が生きるために必要なエネルギー消費量が増えている、ということを理解しておきたいと思います。


ちなみに、世界のエネルギー消費量は1965年と比較して4倍に増加し、一人当たりのエネルギー消費量は1.6倍に増加しています。

1.6倍と聞くと日本の2.3倍より少ないようですが、先進国だけでなく発展途上国も多数ある中で世界全体で見ると、このような数字になります。

最新のデータでは、80%くらいが石油、天然ガス、石炭などの化石燃料を使った発電になっています。

それだけ温室効果ガス(GHG)を排出する化石燃料に頼っている、ということです。


次に、公害と環境問題、それぞれの定義を確認してみましょう。

公害とは、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること(環境基本法より)。

環境問題とは、広くは生物を取り巻いている外界に発生する、生物にとって有害な現象一般。人類の活動が人類を取り巻く環境あるいは自然総体に対して各種の干渉を行い、悪影響を生じさせる現象(日本大百科全書より)。

とてもよく似ていますが、違いをイメージとして述べると、公害は、日本ならば日本の中の近隣地域など、特定の人や地域に及ぶものであるのに対して、環境問題は国全体、さらには他国にも影響がある点で、国際的な問題となりやすい点かと思います。


まず、日本の公害・環境関連の歴史を駆け足で見ておきましょう、

1891年に、衆議院議員の田中正造が、足尾銅山鉱毒問題について議会で取り上げました。この問題は、日本の公害問題の原点と言われています。

1950年代、60年代には、のちに日本の四大公害と呼ばれる水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくが深刻な被害を引き起こしました。

それをうけて、1967年に公害対策基本法が制定され、さらに1993年には環境基本法へと発展しました。

この辺りは、中学の歴史で学ぶところだと思います。

ここでは、四日市ぜんそくについて少し説明しておきます。

1950年代末から1970年代にかけて問題化した大気汚染による集団喘息障害であり、原因物質は、硫黄酸化物、二酸化窒素、二酸化炭素でした。

中東産の硫黄分の多い原油を使っていたことで被害が悪化したとされています。

中部電力の火力発電所も発生源の一つでした。

なぜ四日市ぜんそくを取り上げたかと言うと、他の3つの公害は、一企業が排出した金属が原因物質となっているのに対して、多数の企業が集まったコンビナートにおいて、化石燃料を燃やしてできた物質が原因物質となっているからです。

まさに、最初に見た高度成長期のエネルギー大量消費によって生じた問題について対策を怠った結果として生じた公害であり、それゆえに、環境庁(現・環境省)設立の要因となった公害でもありました。


ここで、主な環境問題とエネルギーとの関連について、簡単に整理しておきましょう。

地球温暖化化石燃料の燃焼による温室効果ガス(GHG)排出

森林破壊←太陽光発電のソーラーパネルや水力発電所など、発電施設の設置

海洋汚染←石油を運ぶタンカーの座礁など、輸送時の事故

水質汚染←地球温暖化によって水温が上昇し、生態系が変わる(赤潮など)

大気汚染←化石燃料の燃焼によって硫黄酸化物、窒素酸化物が排出される(四日市ぜんそくなど)

このように問題状況はさまざまですが、エネルギーと環境問題は切っても切れない関係にあり、環境問題への影響をいかに少なくしていくかが大切です。

それでは、エネルギーの観点から、どのように環境問題への影響を少なくしていくことができるでしょうか?

①④⑤ 化石燃料の燃焼に関して

脱硫、脱硝、脱炭素設備の改善

これは、第1回で触れたように、日本の火力発電所の強みでもあります。

・温室効果ガス(GHG)排出量の少ない燃料の利用(バイオマス・水素含む)

・化石燃料を使わない発電への代替

② 発電施設の設置に関して

土地改変量の少ない発電方法の利用

前回太陽光発電のところでお話しした「ペロブスカイト系太陽電池」や、ビル・家の屋上にソーラーパネルを設置することは、新たに山や森を切り拓かなくてよい工夫と言えます。

③ 輸送時の事故

・安全な輸送方法(液化、吸蔵、航路の確保など)

もちろん、省エネルギーの実施も重要な対策です。


最後にエネルギーから枠を広げて、環境と持続可能性に関連して Planetary Boundaries(プラネタリーバウンダリー)についてお話ししておきます。

これは、中学の公民の教科書にも載っている SDGs(エス・ディー・ジーズ、Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とも深い関係がある概念で、地球の環境に変化(とくに人間の影響)が加わっても、もとの状態に戻り、地球環境が安定した状態を保てる限界の範囲を9つの項目で示したものです。

例えば気候変動(地球温暖化)について言えば、もともと二酸化炭素を出す生物はいたわけで、二酸化炭素が吐き出されたとしても地球がもつ自浄能力でバランスが保てていたのが、人間の活動が増えたために一気に二酸化炭素が増えて、地球の自浄能力が追いつかなくなっているのが、今の状況なのです。

一方で、成層圏オゾン層の破壊についてはさまざまな対策が採られた結果、回復に至っています。

それでは、エネルギー無しで生きていけない私たち人間は、環境と折り合いをつけていくために、これからどうしたらいいのでしょうか?

現状維持で、好きなだけエネルギーを使うならば、まもなく資源は枯渇し、環境は汚れ、未来の人々の生活充実度は下がるでしょう。

これに対して、ディープエコロジーという考え方は、今の人々が生活の質を落とすべきだとします。しかしそれでも、未来の人々の生活充実度が下がることを防げません。

そこで、メンターが専門とする産業エコロジーは、産業を持続可能にすることで、今の人々のニーズをできるだけ満たしつつ、未来の人々の生活充実度も損なわないようにすることを目指しているのです。


以上、まとめます。

・人類の使用するエネルギーの増加にしたがって、地球環境への影響も増加してきた

・環境へのダメージは人間へのダメージとして顕在化した

・様々な持続可能性を考えた行動・施策が必要


それでは質問タイムです。

参加者「最後、持続可能な行動、施策が必要と書いてありますが、私たちが思っているより、環境へのダメージは大きいものですか?」

メンター「大きいと思いますが、見えにくいダメージもあるかもしれません。

例えばプラネタリーバウンダリーの項目のうち、生物圏の健全さについては、種の絶滅速度が限界を超えています。

また、土地利用変化に関しては、森林を切り拓いて農地などにしたため、生態系が失われ、回復できていません。

新規化学物質については不明な点が多かったのですが、最近では、マイクロプラスチックなど、環境へ悪影響を与えることが広く認識され始めています」


参加者「プラネタリーバウンダリー、非常に面白いです。今地球に与えているダメージが、地球が自分で処理できる範囲を超えているという図だと思います。そこで疑問を抱いたのですが、クリーンエネルギーをプラスすると、さらなる悪化を促してしまうのではないでしょうか?」

メンター「鋭い指摘です。地球温暖化対策のために、森林を切り拓いて太陽光発電のメガソーラーを建設することで土地利用変化の項目が悪化するように、さまざまな項目全てを同時に改善することは難しいです。優先順位というか、許容ラインを見定める必要があると考えています。

最近の研究では、二酸化炭素が減っても、同時に地球を冷ます効果のあるガスも減って、計算をしてみると、実は温暖化対策になっていないのではないか、いわば、あちら立てればこちらが立たぬ、といった状況になっているとされています。

生物地球化学的循環の項目について言えば、私の専門である窒素の主要な用途は、食料生産のための人工肥料ですが、これが大気や水質、土壌に深刻な汚染をもたらしています。

現状ハーバー・ボッシュ法という方法で肥料は作られていますが、これに世界のエネルギー消費量の3%くらいのエネルギーを使っています。

これから世界の人口が増えていく中で、それではまずいので、今急ビッチで、ハーバー・ボッシュ法を使わずに肥料を作る研究が行われています」

ちなみに、ハーバー・ボッシュ法は、高校化学の教科書で大きく取り上げられています。


参加者「これからEV車は普及すると思いますか?」

メンター「ヨーロッパでは普及すると思いますが、日本では厳しいかなと思っています。

化石燃料を使わないというメリットはあるのですが、短距離、平坦な道、温暖な気候、という条件に向いていて、日本のように、山がち、長距離利用が多い、冬は寒くなって雪の降る気候、さらに充電スタンドの設置が進まない、という条件では難しいと思います。地政学的条件による、というところです。

ただ、ルートが決まっているトラックなどに対して普及する可能性はあると思います」


第4回(6月17日20:00-21:00)のテーマは、次世代のエネルギーです。

申込みは、メール( info@thinkers.jp )、Facebook( @jp.thinkers )のメッセージ、X(旧Twitter)( @jp_thinkers )のDM、いずれでもOKです。

参加費は無料、前提知識は必要ありませんので、お気軽にご参加ください。


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