こんにちは。
学術系VTuberと学ぶゼミ・シーズン2(物理・環境)第4回(2024年6月17日@Google Meet)の報告をします。
メンターは、産業エコ系VTuber KIWAMU(きわむ)さんです。
第4回のテーマは、次世代のエネルギー。
工学研究科 博士課程後期修了のメンターが、わかりやすいスライドで説明します。
最初に、これまでの3回のおさらいをしました。詳細は、
をご覧ください。
そして、第2回で質問のあった水素エネルギーについて詳しく見ていきました。
まず、水素エネルギーの特徴ですが、燃焼時にCO2(二酸化炭素)を排出しません。
中学2年生の理科で学ぶ化学反応式で表すと、
2H2+O2→2H2O
となります。水素と酸素が結合すると水になり、CO2はできないのです。
2つ目の特徴として、エネルギー効率が高いです。この点についてはあとで触れます。
3つ目は、様々な物質(水、天然ガスなど)の分解で得られること。
中学2年生の理科の実験で、水の電気分解をやると思いますが、さきほどの化学反応式の逆で、水に電流を流すと、水素と酸素ができます。
日本は水が潤沢にある国ですので、国内で得られるクリーンなエネルギーとして注目されています。
参加者から、
「水素自動車も注目されていますね。トヨタのMIRAIなども水素エネルギーですね」
とコメントが入りました。
ただ、水素エネルギーにはいろいろな種類があります。
グレー水素は、化石燃料を水蒸気と反応させて得る水素です。主に天然ガスの分解で得られる水素を指しますが、天然ガスを分解するときにCO2が発生するので、クリーンなエネルギーとは言いにくいです。
ブルー水素は、グレー水素の製造過程で生じたCO2をCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留)で回収し、排ガスの中のCO2を封じ込めたものです。この場合は、温室効果ガス(GHG)を排出していないと言えます。
グリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて製造した水素です。例えば、太陽光発電で得られた電気で水を分解した場合は、グリーン水素ということになります。
これら3つのうち、ブルー水素、グリーン水素がクリーンなエネルギーとされています。
水素エネルギーの課題を見ておきましょう。
まず、グレー水素は、製造のために化石燃料を使い、CO2が発生することが課題そのものです。
次はブルー水素、グリーン水素にも共通する課題ですが、水素は原子半径が小さく、反応性も高いため、専用の容器を必要とする点が挙げられます。
第1回で天然ガスは液化してタンカーで運ぶという話をしましたが、あのタンクは鉄製です。もしそこに水素を貯めた場合、サイズの小さい水素が鉄の間に潜り込んで、金属を脆くさせて、発生した亀裂から外に抜けてしまうことがあります。
このように、タンクの材質に配慮が必要であるため、初期投資やメンテナンスのコストがかかってしまいます。
さらに、さきほど見たように、水素はエネルギー効率が高いため、事故が発生した場合の被害が大きくなると言われています。
H形ガラス管などを使って水の電気分解の実験をしたとき、何ができたか確認するために火のついたマッチを近付けると思いますが、そのとき水素がポンと音を立てて燃えます。
学校で安全に行われる実験でもそうなのですから、ギュウギュウに圧縮した水素に火を近付けたらもちろん、火でなくても静電気や、金属同士がこすれ合ったときの火花程度でも爆発してしまう危険があります。
つまり、エネルギー効率が高いがゆえに被害が大きくなってしまうことが、水素エネルギー3つ目の課題です。
そのため、水素を安全に運ぶための工夫が必要となり、例えばアンモニアがキャリア(貯蔵材料)として注目されています。
水素貯蔵材料の重量密度と体積密度の関係についてのグラフを見ると、アンモニアは重量密度、体積密度ともに大きくなっています。
アンモニアは、メンターの専門である窒素と、水素で作られます。
化学反応式で表すと、
N2 + 3H2 → 2NH3
1mol、22.4Lのアンモニアを運んだら、33.6L、つまり1.5倍の水素が取り出せます。アンモニアの中にギュッと水素が詰まっているわけです。
このように、アンモニアの状態で運んだほうがたくさんの水素を運べるだけでなく、アンモニアは-33度で液化する点で扱いやすいですし、インドネシアやマレーシアから輸入していますので、そのタンカーを使いまわすことができます。
アンモニアをグリーン水素で作って、エネルギー消費の少ない方法で水素に戻すことができれば、水素エネルギーの課題は解決すると考えています。
また、アンモニアは、水素の輸送手段としてだけでなく、発電の燃料としても注目されています。
アンモニアは混焼と言って、化石燃料と混ぜて燃焼させることができます。
第1回で見たように、日本は石炭火力発電の割合が比較的多いので、グリーン水素から生成したアンモニアを石炭と混焼してみたところ、アンモニアの比率が20%でも、CO2の排出量が3割くらい減りました。
アンモニア50%だとさらに減って、天然ガスを使った火力発電におけるCO2の排出量に近くなりました。
ただ、アンモニア発電にも課題はあります。
第1回、第2回で見たように、世界全体として石炭火力発電への風当たりが強くなってきていて、COP(コップ、国連気候変動枠組条約締約国会議)では、将来的に石炭火力発電をなくす方向で議論が進んでいます。
とはいえ、発展途上国では、発電の50%くらいが石炭火力発電で、中国やインドはさらに石炭の割合が多いです。
そのため、石炭を使っている国の初期の選択としては、たしかにアンモニア発電は有効ですが、最終的に石炭火力発電を廃止するという流れの中で、アンモニア混焼によるCO2排出減がどれほど説得力をもつでしょうか?
また、アンモニア混焼によってCO2が減ったとしても、NOx(ノックス、窒素酸化物)が排出されます。NOxの中には温室効果ガス(GHG)も含まれているので、NOx対策が別途必要となります。
さらに、グリーン水素から生成したアンモニア20%を石炭と混焼した場合ですら、コストが石炭火力発電の4倍となり、それが国民の電気代に響いていくことになります。コストをどう抑えるのでしょうか?
これらの課題を踏まえ、アンモニア発電の今後の展開として、
・アジアを中心とした石炭火力発電がメインの国への支援をしつつ、
・CO2ならびにNOxの排出のさらなる削減を図り、
・何年までにこれだけ削減できると具体的な数値で、脱炭素に対する貢献の根拠を明示していく
のがよいのではないかと考えています。
全4回をまとめます。
・人類の使用するエネルギーの増加にしたがって、地球環境への影響も増加した
・その中で、環境に配慮した技術が日進月歩、開発されてきている
・環境問題は地球全体の問題であり、日本の中だけで収まる問題ではない。日本は世界に対してこのように貢献できるから、この方針で進みます、といった態度を決めて、粘り強く各国と対話をしていく、そうした国際的な交渉力も必要不可欠である
参加者から
「勉強になりました」
「面白い授業でした」
といった声が上がりました。
最後は、恒例の質問タイムです。
参加者「アンモニアの他に、例えばどのような水素キャリアがありますか?」
メンター「金属に水素をつけるタイプとして、AlH3(水素化アルミニウム)、有機物につけるタイプとして、C7H14(メチルシクロヘキサン)などがあります」
参加者「水素を燃やすと水ができますが、この水をまた何かに利用したりは出来ないのでしょうか?」
メンター「水素を燃焼させてエネルギーと水が出てきた場合、出てくる水の量は少量です。それを集めるのにもエネルギーが必要になるので、利用することは今はあまり考えられていないと思います。
40年後、50年後には新しいエネルギーが出てきているでしょうから、その頃には利用できるようになっているかもしれません」
参加者「何年か前から、メタンハイドレートなど、日本近海にエネルギー源が埋まっているといったニュースを見かけます。今有望なものはありますか?」
別の参加者「島根ら辺でしたっけ?」
メンター「2年前から島根・山口両県沖で海洋ガス田の探鉱が始まっています。国内での海洋ガス田の新規探鉱・開発は約30年ぶりだそうです。
東部南海トラフ(静岡県沖~和歌山県沖)のメタンハイドレート濃集帯のメタン量は、天然ガス田で言えば大ガス田クラスの量とも言われていますが、実用化にはまだまだ時間がかかりそうです。
ただ、今世紀に入ってからの技術開発により、アメリカではシェールガス(シェール層から採れる天然ガス)の国内生産が本格化し、天然ガスの輸入量が減少しました。これはシェール革命と呼ばれています。
日本でも、うまくいけば有力なエネルギー源が見つかるかもしれません。
参加者の中から、掘り当てる方が出ることを祈りつつ、お開きにしたいと思います」
学術系VTuberと学ぶゼミ・シーズン3の内容が決まりましたら、このウェブサイトでお知らせします。
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